エラーは守備が上手い証拠?データに見る野球とは
はじめに
私が子どもの頃は、スポーツと言えば野球、野球と言えばジャイアンツでした。
雨で試合が中止にならない限り、テレビは毎晩のように巨人戦を放送し、大して野球に興味が無い子でさえ、全球団のエースと四番打者くらいは言えたものでした。
打って変わって、今ではすっかりサッカーにその人気を奪い去られ、かつては毎日のようにあったテレビのナイター中継も、ほとんど見かけなくなりました。
しかし、野球には野球ならでは面白さがあります。この本は、今までとは違った「野球の楽しみ方」を教えてくれる本です。
- 作者: マイケル・ルイス,中山宥
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2006/03/02
- メディア: 文庫
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物事を違った角度から眺めると、今までの常識とは正反対の事実が見えてくるよ、というのが今回のお話。
要約
この本は、ビリー・ビーンという敏腕GMが、「スカウトの目」などという曖昧な評価ではなく、独自のデータ分析により合理的に選手を評価・補強し、リーグ最低の資金力でありながら、豊富な資金力を持つチームを次々と打ち負かしていくという話です。
その中で、従来の野球の常識に疑いを持つ人々が、数々の画期的なアイデアや評価基準を野球界に導入していきます。
野球はスリーアウトになるまでは何が起こるかわからない。スリーアウトになってしまえば、もう何も起こらない。したがって、アウトカウントを増やす可能性が高い攻撃はどれも、賢明ではない。
バント、盗塁、ヒットエンドランなどのサインプレーは、ほとんどが的外れか自滅行為
数々のドラマを生んだサインプレーは、ただ余計なアウトカウントを増やすだけの、極めて不合理なプレーということのようです。
では、どんなプレーに価値があるのでしょうか?
アウトカウントを増やす可能性が低い攻撃ほど良い
出塁率の重要性が認識され始めると、OPSという指標が注目されるようになりました。
OPSは、出塁率(打者がアウトにならずに塁に出る確率)と長打率(打者の塁打数を打数で割ったもの)とを単純に足し合わせた値です。
計算上は出塁率と長打率は同じ価値とされていますが、実際にはどうなのでしょうか?
長打率が10割とは、一人目の打者がホームランで残る三人の打者がアウトになるケース。つまり、1イニングで1点入ることになる。
出塁率が10割とは、全員の打者がアウトにならずに出塁するケース。つまり、イニングはいつまでも終了せず無限に点が入ることになる。
実は、出塁率の方がはるかに価値があるようです。つまり、打者が四球を選ぶ能力は、今まで考えられていたよりもずっと重要だったのです。
この考え方を体現した選手が、ケビン・ユーキリス選手です。
彼は長打力こそありませんが、その出塁率の高さでチームに貢献する選手でした。
他にもこの本では、従来の考え方を真っ向から否定する画期的なアイデアを紹介しています。
エラー数には意味が無い
エラーをするのは、的確な位置に守っていたからである。エラーを記録されたくなければ、緩慢にプレーしてボールに追いつかなければいい。
確かに、若い頃にエラーが多かった選手が、後に華麗な守備を見せる名手になったという逸話は良く聞きます。
これは、元々は守備が下手だった選手が練習して上手になったのではなく、元々守備が上手かった選手が練習して際どいボールも捌けるようになった、ということかもしれません。
さらに、投手についても興味深い仮説が紹介されています。
ホームラン以外の打球がヒットになるかどうかは、投手には無関係
ヒットは投手の責任ではなく、ただの運
この仮説の根拠として、与四球、被本塁打、奪三振以外の数値は、どんな名投手であっても、シーズン毎の変動が極めて大きいことを挙げています。
確かに試合を見ていると、明らかに投手にとって不運としか言いようが無いヒット、というのも良く目にします。
まとめ
この本では、スポーツの世界でデータを活用する有効性について述べていますが、同時にそのような動きに対する既存勢力の抵抗も大きなものであると語っています。
それだけに、まだまだデータ分析による改善の余地が多く残されているのでしょうね。
データ分析は応用できる範囲も広いですし、今後ツールが整備されてくれば、様々な分野で応用が進む事でしょう。
ちょっと前に「データサイエンティスト」なる職業がもてはやされた時期がありましたが、データ分析の技法は身に付けておいて損はなさそうです。
特にSEやプログラマーをやっている人にとっては、データ分析のためのツールもすぐに使いこなせるでしょうし、他の業界の人達よりも有利だと思います。
私も勉強をはじめてみようかな。